【リハビリ・センター】
オランウータンの孤児を収容し、野生に帰す活動をしている施設が、インドネシアおよびマレーシアに何か所かあります。私もテレビなどで見たことがあります。これらの施設について、鈴木先生からショッキングなお話を伺いました。
ある有名な施設では、10年間で700頭保護し、そのうち3割は飼育中に亡くなり、300頭を森へ帰したと発表しているそうです。ところが、森へ帰ったオランウータンの追跡調査が行われていないのだそうです。オランウータンの観察調査が容易でないことは理解できます。それにしても、苦労して命をつなぎとめ、手をかけて世話をしたオランウータンたちのその後を、気にかけないはずはないと思います。森に放しておしまいでは、神社に猫の子を捨てるのと変わりありません。あるいは公表できる数字が出てこないということかも知れません。
鈴木先生は、オランウータンを放しているという森をご覧になったそうですが、樹高の高い、非の打ち所のない良い森だそうです。けれど、そこにはオランウータンの姿はなく、寝た痕跡すらひとつも見つからなかったそうです。その森で生き続けているとは思えないとのことでした。
森へ帰すためのノウハウが確立されていないのが、大きな問題だそうです。先生は、訓練の不十分さと、放すべき森の選択の誤りを指摘されました。
本来なら「植物学者」と呼ばれるオランウータンですが、果実食中心に育てていて、食べられる木の葉の種類や樹皮、樹液の食べ方を知らないのではないかと危惧されます。もともと保護された森、オランウータンのいる森に放せば、まわりを見て食べ物の知識を得られると、先生はおっしゃいます。
1999年5月に大阪のペットショップで保護された4頭のオランウータンの子どものことを、覚えていらっしゃるかたも多いと思います。彼らも現在リハビリ施設で訓練中とのことですが、鈴木先生は、上記の理由から、彼らを森に放さずに保護し続けてくれるように施設に申し入れをなさっています。一部新聞にすでに森に放したとの記事が載ったことがあるそうですが、幸い誤報だったようです。
また、施設のなかには、地面に置かれた哺乳びんを奪い合いながら育つような、きわめて飼育環境の悪いものもあるとも伺いました。
現地に行ったこともない者が、伺ったお話だけで、軽々しい発言は控えますが、一頭でも多くのオランウータンに生きていて欲しいという思いで尽力されている大勢のかたの努力が、もしも、結局は死にしかつながっていないのだとしたら、あまりにも哀しすぎると思いました。それから、保護されたオランウータンたちが故郷へ帰ってめでたし、めでたしで終わってはいないことに、ひとりでも多くのかたに注意を払っていただければ、とも思いました。さらに、もし現場をご存知のかたから、施設を卒業していったオランウータンは、こんなにしっかり生きています、という反論をいただけたら、こんな嬉しいことはありません。
【写真展】
鈴木晃先生の、クタイの森での活動の様子は、
公式サイトでご覧いただけます。
9月7日から12月10日まで、多摩動物公園のウォッチングセンター内パネル展示室で、「アジアの隣人オランウータン」展と題した写真展が開催されています。野生オランウータンの生息状況や保護活動がパネルとビデオで紹介されています。
おまけ:ジプシーさん一家その後
せっかく多摩動物公園まで出向いたので、ジプシーさん一家の様子も見てきました。ジプシーさんは、孫の相手をしたり、娘のチャッピーさんと話し込んだりしていました。去年母を亡くしたユリーちゃんも、元気にポピーくんと遊んでいました。