野生のオランウータンのお話

マレーシアの保護施設から来た
ズーラシアのフィオナちゃん
 野生のオランウータンを撮影したビデオを見る機会がありました。インドネシア・ボルネオ島、クタイの森で、約20年にわたって野生のオランウータンを観察、調査されている鈴木晃先生の講演会です。去る7月20日に多摩動物公園で行われました。鈴木先生は、日本インドネシア・オランウータン保護調査委員会の日本代表を務めていらっしゃいます。
 クタイ国立公園のすぐ脇で大規模な石炭採掘が行われているため、隣接するエリアに保護林を残してもらえるように、石炭会社に協力を依頼したり、国立公園内にもかかわらずあとを絶たない盗伐を通報するなど、オランウータンの生活環境の保全にも、並々ならぬ力を注がれています。

【オランウータンの子どもたち】
 ビデオは、一頭の母親を中心に、その子どもたち相互の関係などを撮影したもので、オランウータンの動きにともなった葉のざわめきや、ビデオをまわす現地スタッフのインドネシア語などが入り、臨場感あふれる映像でした。
 母親が妊娠中であまりかまってもらえない子どもが、歳の離れた長姉のところへ行って、その子どもと遊んだり、一度親離れした子どもが、赤ちゃんを抱く母親に遠慮がちに近づいたりと、思っていた以上に血縁者どうしつながりを持って生活している印象を受けました。
 オランウータンは、流れのある川ではなく、湧き水を好んで飲むのだそうです。親子が斜面の草を両足でつかんで体を支え、開脚した姿勢で、そろって水を飲んでいるシーンは、まさにオランウータンならではと微笑ましく拝見しました。

【2020年絶滅説?】
 2020年には、森の消滅と共にオランウータンは絶滅するという説があるそうです。オランダの研究者の見解だそうです。鈴木先生は、この考え方には否定的です。
 二度の山火事で、オランウータンは壊滅的な被害を受けたという報道もありますが、先生の観察では、山火事で死んだオランウータンはほとんど居ないとのことでした。山火事で木々が落葉しても、樹皮を食べてオランウータンは生き抜いているそうです。仮に、うっそうとしたりっぱな一次林がなくなったとしても、あとから育つ若い木の樹皮、樹液をかしこく利用して、二次林でも生きてゆけるという、心強いお話でした。
 そのほかにも、観察対象のメスが、50歳を越えて赤ちゃんを産む可能性があるとか、生まれた赤ちゃんの多くがしっかりおとなに成長しているとか、オスは100歳近くまで生きるらしいとか、嬉しいお話も伺うことができました。
 とは言え、オランウータンが危機的状況にあるのは確かなことです。森のなかでバラバラに暮らしているため、生息数の推定は難しいそうですが、1997、98年のヘリコプターでの調査では、この森に3000頭居るかどうか、ボルネオ、スマトラ全部あわせても1万頭くらいというのが先生のお考えでした。
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