ジプシーさんの波瀾万丈

 写真、一番手前で、腕組みをしてこちらをじーっと睨んでいるのが、多摩動物公園の長老、ジプシーさんです。推定ですが、今年で47歳になります。
 なぜ、こんなにコワイ顔をしているかというと、この日は、「大人のためのじっくり動物研究」と銘打った観察会があったからです。ここのオランウータンたちは、大勢の人が入れ替わり立ち替わり見ているぶんには、とくに意に介さないそうです。お仕事だと割り切っているらしいです。けれど、同じ人がずっととどまって見ているというのは、実はとても嫌なのだそうです。このときは15人もの人が、カメラや双眼鏡を片手に、何時間も観察を続けたわけですから、さぞやお気に召さなかったのでしょう。あとから伺ったお話では、名前などを呼びかけてあげることで、ストレスがかなり緩和されるということでした。知らなかったこととはいえ、ジプシーさんには申し訳ないことをしてしまいました。
 ジプシーさんは、多摩動物公園が開園した1958年の7月に、推定3歳でボルネオからやって来ました。その2年後に、ジプシーさんの最初のだんなさま、ドン・ホセが来ました。
 若い頃、ジプシーさんは、都心から遠いこの動物園の知名度アップに、ずいぶん貢献しました。ジプシーさんとドン・ホセの結婚式が行われたり、テレビに出演したり、また、お正月には、動物たちの無病息災の祈りを込めた動物パレードが行われ、ジプシーさんは、ロバにまたがって、近くの高幡不動まで1キロの道のりを行進もしたそうです。
 ジプシーさんが8歳の秋には大事件がありました。ホセの脱走騒動です。ジプシーさんとホセが、当時、運動場に設置されていた藤棚のような日よけを壊し、はずした板を壁に立てかけ、その上に、さらにもう1枚の板を継ぎ足して、ホセが壁を乗り越えたのだそうです。一部始終を見ていたお客さんの話によると、1枚目の板の上に乗ったホセに、下にいたジプシーさんが、2枚目の板を手渡し、板と板の継ぎ目を、はずれないようにジプシーさんが押さえてやったので、ホセは2枚目の板に乗り、塀の上に出て外の木に脱走したのだそうです。それ以来、運動場にはコンクリートで固定した建造物しか置いていないとのことです。
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