野毛山のおばあちゃんたち

 桜木町の駅から、ランドマークタワーと反対の方向に10分ほど歩いたところに、野毛山動物園はあります。町なかにある古いタイプの動物園の常として、けっして広くはありません。1999年4月にズーラシアが開園し、約2割の動物たち、30種100点がそちらに移り、寂しくはなりましたが、その分、動物たちの住環境は幾分良くなったようです。
 今年になって、総合学習の時間など、学校の授業としての利用が増えているとのことです。飼育担当のおひとりが教育専任になるなど、教育の場としての動物園のあり方にも、積極的に取り組んでいます。
 そして、何と言ってもいちばんの魅力は、園長さんをはじめ、飼育係のかたが皆さんとてもフレンドリーなことです。入園料が無料なのも、ファンにとっては嬉しいかぎりです。さて、PRはこのくらいにして……

 野毛山動物園には、友だちや連れあいに先立たれて、ひっそりと独り暮らしをしている高齢の動物が何頭か居ます。動物園の役割のひとつ、種の保存、繁殖という視点から見た場合には、「余剰個体」という非情な名前で呼ばれてしまう動物たちです。が、もちろんこちらの動物園では、敬意と愛情を込めて「さん」付けで呼ばれています。
 このおばあちゃんたちが、50年間、あるいは20年間、ここで何を見つめていたのだろうか、今、何を思っているのだろうかなんて、知るすべもありません。でも、閉園時間までのひととき、黙って向かい合っていると、感謝の気持ちだけはわかってもらえそうな気がしてきます。

  ハマコさん アジアゾウ ♀ 推定58歳
【ハマコさん】  1951年4月、野毛山動物園開園と同時に、推定年齢7歳で、インドのカルカッタから来ました。当初から従順で、使役に使われていたらしいとのことです。
 6年後の1957年に、1歳半の赤ちゃんゾウ「マリコ」が、タイから来ると、ハマコさんは、我が娘のようにかわいがり、気遣い、かばったそうです。おかげで、マリコさんは多少わがままに育ってしまったようです。
 1955年頃から約10年間、おじぎ、ラッパ吹き、碁盤乗り、乱杭渡りなどのパフォーマンスを披露して喜ばれたこともあります。
 とても仲良しだったマリコさんが、1987年に悪性腫瘍で亡くなってから、ハマコさんはひとりで静かな日々を送っています。一時、体調が心配されたこともありましたが、去年は開園50周年の式典にも参加し、まだまだお元気そうです。

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