創作メルヘン 「シナリオライター」
かたつむりは毎朝、植え込みから這い出し、大胆にも石段を横切って、門の辺りまでやってくる。ちょうどその時間、ミキさんは、トーストをほおばりながら石段を駆け下りて、郵便受けから手さぐりで朝刊を取り出す。石段を帰りかけたミキさんは、かたつむりに気付く。かたつむりは、二、三段先の縁にしがみついていることもあれば、まさに足元にうずくまっていることもある。
「ああ、踏まなくて良かった。」ミキさんは、胸をなでおろす。
かまきりは、朝顔の葉に隠れ、鎌を振りあげて、獲物の蝶をねらっている。ツトムさんは、窓際の食卓でコーヒーを飲んでいる。ツトムさんが顔を上げ、窓の外に目をやる。その度にかまきりは、そのままの姿勢で硬直してしまう。ツトムさんがテレビの方に向き直る。
「ああ、良かった。見つかったらどうしようかと思った。」かまきりは、顔に似合わず小心者である。
天気予報が、雷雨の可能性を伝えている。ツトムさんは、リモコンで音量を上げる。
「ああ、良かった。危うく聞き逃すところだった。」ツトムさんは、傘を鞄に入れる。
庭の山茶花の若木に、雀が来ている。雀は、トーストのかけらを待っている。山茶花の根元のほおずきの鉢は、なぜだかひっくり返っている。喰いしん坊の雀たちは催促の唄を歌う。雀の声を聞きつけて、向いのクロが忍んで来る、いつもの朝なら。
今日のクロは、どういう訳か、ベランダで熱心に顔を洗っている。ミキさんは、ちらりとクロを見てから、庭にトーストのくずを撒く。雀たちが舞い降りる。ミキさんは雲行きを気にしながら、洗濯をしに行く。
「ああ、バレなくて良かった。」クロは、ため息のついでに欠伸もして、やっと腰を上げる。ほおずきの鉢は、夕べのクロの仕業だった。クロが雀たちを見る。
「ああ、危ないところ、間に合って良かった。」雀たちは、最後の一かけをくわえて、一斉に飛び立つ。
門の前では、ちょっと不満顔のかたつむりが、明日の朝用の、もっとエキサイティングなシナリオを、郵便屋さんに託している。