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 花祭りが過ぎ、もう、とうに暖かくなって良い季節なのに、その晩は、ことのほか冷え込んだ。チミは、あまりの寒さで、夜中に目を覚ました。頬も耳も、冷たくなっていた。
「さァむゥゥい・・・」
 布団を引き上げようとした時、チミの顔の上に、何かが落ちてきた。先日送られてきた、毛糸の帽子だった。それは、まるで日溜りに置かれていたかのように温かかった。チミは、すがりつくように帽子をかぶった。
 チミは、あっという間に、眠りに引き戻されたのだろうか。田舎の畔道を、ばあちゃんと歩いていた。季節はすっかり春で、菜の花が咲いていた。
「ほら、あった。この辺は、ようけ出とるけんな。」
 ばあちゃんがしゃがみ込んで、摘んで見せたのは、ツクシだった。
「ばあちゃん、これ、ほら。こっちの方が大きいよ。」
「ああ、そんなに大きいのは、美味しないんじゃ。こんまいのが、ええんよ。」
 大きなブリキのバケツが、ツクシでいっぱいになった。それは重たくて、幼いチミには、とても持ち上げられなかったけれど、ばあちゃんは、片手でひょいと提げて、その上、チミをおんぶしてくれた。
 帰り道、ばあちゃんの背中は温かで、空がとても近く見えた。

 季節外れの冷え込みにもかかわらず、チミは、久しぶりに、気持ち良くぐっすり眠れた気がした。翌朝、チミは、ばあちゃんに電話をした。
「ばあちゃんなあ、こっちに来られん? ばあちゃんと一緒に暮らしたい思てな。」
「どしたん? 急に・・・。あのなあ、宅配のにいちゃんがな、生き物は送れんのじゃと。」
「なんがね、お蜜柑にでも、帽子にでも、化けたらいいんじゃわい。」
「ああ、ほうじゃなあ。そしたら、明日にでも送ろうわい。」
二日後に、たぬきのマークが描かれた、大きな段ボール箱が届いた。桜の花びらが一枚、部屋の中に舞い込んだ。
「やっと、春めいて来ましたね。」
 重たいからと、キッチンまで運び込んでくれた配達の青年は、玄関先に戻ると、空を見渡して、今、初めて気がついたというように言った。
「あいたたたた。にいちゃんの運転が荒いけん、アザになりよったわい。」
キッチンの奥で、懐かしい声がした。遠くで雲雀が鳴いた。

 1993年〈第24回 共石創作童話賞(現:JOMO童話賞)〉で佳作に選んでいただいたものに、若干加筆しました。
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